贈与税の相続時精算課税制度
Q.贈与税の相続時精算課税制度という制度ついて、概要を教えてください。
A.相続時精算課税制度は60歳以上の親や祖父母から18歳以上(令和4年3月31日までの贈与の場合20歳以上)の子供や孫への贈与に利用できる制度です。非課税枠が2,500万円あり、2,500万円までは贈与税が当面非課税になります。ただし、親や祖父母等の贈与者の相続発生時に先渡しした贈与財産を相続財産に加えて相続税を計算する方法ですので、贈与財産は最終的に相続税の計算に含まれることになります。なお、相続税の計算を行う際に贈与時の価額で持ち戻し計算を行うため、将来価額が値上がりする可能性が高い資産(非上場株式や不動産等)に適用することで、相続税の節税につながる方法です。
(解説)
1.相続時精算課税制度の基本的な考え方
贈与税の課税方法には「暦年課税制度」と「相続時精算課税制度」がありますが、財産を受け取った側がいずれかの方法を選択できます。相続時精算課税制度は60歳以上の親や祖父母から18歳以上(令和4年3月31日までの贈与の場合20歳以上)の子供や孫への贈与に利用できる制度です。財産をあげる方(贈与者)ともらう方(受贈者)の1対1の関係で選択適用できる制度ですので、例えば、子供側から考えると父からの贈与については相続時精算課税制度を適用し、母からの贈与については暦年課税制度を適用するということも可能です。
2.相続時精算課税制度の計算方法
相続時精算課税制度の具体的な計算方法は以下のとおりです。
仮に3,000万円の資産を贈与する場合に、受贈者側が相続時精算課税制度を適用すると100万円の贈与税を納める必要があります。
贈与税額:(3,000万円-2,500万円)×20%=100万円
ただし、3,000万円については贈与者の相続発生時に相続財産に加算するため、最終的には相続税の計算に含まれることになります。なお、この贈与時に支払った贈与税100万円は相続税の計算の中で控除されることになります。
また、暦年課税制度の場合の贈与税額は以下のとおりです。
贈与税額:(3,000万円-110万円)×45%-265万円=1,035.5万円
3.相続時精算課税制度のメリットとデメリット
相続時精算課税制度を利用した場合のメリットとデメリットの比較を行うと以下のとおりです。この制度を利用することで、贈与時の負担を少なくして、下の世代に財産を承継できる等のメリットがある一方で、一度相続時精算課税制度を適用した場合、贈与者と受贈者の2者間では暦年課税制度に戻ることができない等のデメリットがあります。
メリット | デメリット |
---|---|
財産評価額を贈与時の金額に固定化することになるため、将来価額が上昇する可能性が高い資産に適用した場合、相続税の節税になる。 | 一度相続時精算課税制度を適用すると、暦年課税制度に戻ることができない。(110万円以下の贈与であっても、相続税計算時に持ち戻し計算を行う必要あり。) |
非課税枠が2,500万円あり、税率も20%であるため、暦年課税制度と比較して、贈与税負担が少ない。 | 相続時精算課税を利用して贈与した財産について、贈与時よりも相続時の財産評価額が低くなった場合、贈与しなかった場合の方が相続税負担が少なくなる。 |
4.相続時精算課税制度と暦年課税制度の比較
相続時精算課税制度と暦年課税制度を比較した場合の特徴は以下のとおりです。
区分 | 相続時精算課税制度 | 暦年課税制度 |
---|---|---|
贈与者 (あげる方) | 贈与をした年の1月1日現在、60歳以上の父母または祖父母 | 制限なし |
受贈者 (もらう方) | 贈与をうけた年の1月1日現在、18歳以上の子供または孫 | 制限なし |
非課税限度額 | 贈与者一人につき2,500万円 | 受贈者一人あたり年間110万円 |
贈与税の計算 | (贈与財産金額 - 累計2,500万円) ×20% | (贈与財産金額 - 110万円)×超過累進税率 (10%~55%) |
選択の要否 | 必要(父母や祖父母ごとに選択する→一度選択すると相続時まで継続適用) | 不要 |
贈与税の申告 | 金額に関わらず、贈与税申告書と相続時精算課税選択届出書を提出する必要あり | 財産金額が110万円を超えた場合に必要 |
相続時の精算 | 贈与財産は全て贈与時の価格で相続財産に加算する | なし。ただし、受贈者が相続人の場合、相続開始3年以内に受けた贈与財産は相続財産に加算する必要あり |
5.事業承継の場面での適用
親から子や祖父母から孫への事業承継の局面で、自社株式を承継する場合に、この相続時精算課税制度がよく利用されています。一般的には、社長の退任時に退職金の支払を行う等して、自社株式の評価額が一時的に低下したタイミングで相続時精算課税制度を利用して、子供等の後継者に自社株式を承継します。これにより、自社株式の承継に伴う贈与税負担を抑えつつ、自社株式の評価額を低い金額に固定化することができます。