従業員持株会制度
Q.私は中小企業の経営を行っていますが、事業承継対策として、従業員持株会を利用する場合のメリットとデメリットを教えてください。また、留意事項がありましたら、教えてください。
A.従業員持株会を事業承継対策に利用することで、オーナー家の支配権を維持しつつ、相続財産を減らすことができます。ただし、
毎期一定の配当を実施しないと従業員から不満が出る可能性があります。
また、従業員持株会が実態を備えて実際に整備・運用されていることが重要になりますので、持株会規約の作成、会員総会の実施
等が重要になります。
(解説)
1.従業員持株会制度の概要(未上場)
非上場会社における事業承継対策の一環として、従業員持株会制度を採用することがあります。
従業員持株会は、従業員から会員を募り、従業員が資金を拠出して自社株式を共同で購入します。
なお、従業員持株会の形態として複数の形態がありますが、一般的には民法上の組合として設立されることが多いようです。
2.従業員持株会制度のメリットとデメリット
従業員持株会制度のメリットとデメリットの比較を行うと以下のとおりです。
メリット | デメリット | |
会社側 | ・オーナー家の持株比率を減少させることができ、相続税対策になる。 | ・従業員が株主になることで株主権(株主提案権、株主代表訴訟等)を行使されるリスクがある。 |
従業員側 | ・安定的な配当を受領することができ、資産形成につながる。 | ・自社が倒産した場合には、株式価値がなくなり、損失を被る可能性がある。 |
3.具体的な計算例
オーナー家が保有している自社株式を従業員持株会に譲渡することで、相続税対策につながります。
○前提条件
発行株式数:10,000株
株価(原則的評価):10,000円
株価(特例的評価):500円
例えば、オーナー家が100%の株式を保有している状態で30%分の株式3,000株を従業員持株会に譲渡するとします。この場合、取得者である従業員持株会が少数株主に該当するため、特例的評価である500円での譲渡で税務上問題ありませんので、この金額以上の金額で譲渡します。
オーナー家からすると、譲渡前は1億円(@10,000円×10,000株)だった財産が譲渡後は7千万円(@10,000円×7,000株)になりますので、相続財産を圧縮することができます。また、一方でオーナー家が70%の議決権を保有することになり、対策後も安定的な経営を行うことが可能です。(議決権の2/3以上で特別決議を可決できます。)
4.留意事項
従業員持株会を事業承継対策に利用する場合には、従業員持株会が実態を備えて実際に整備・運用されていることが重要になります。
そのため、持株会規約を作成し、理事長の選任、会員総会の実施等が適切に行われている必要があります。
また、持株会規約において、会員資格を限定すること、退職時に株式を持株会に譲渡すること、譲渡価額(額面金額、配当還元評価)を明示することが特に重要になります。